日本のお笑い好きインドネシア人によるM-1グランプリ2025年感想文
こんにちは。インドネシア出身のデキです。前回の記事に続いて、今回の記事も日本のお笑いについて話したいと思います。今年のM-1熱かったですね。熱すぎて寝れそうにないため、この気持ちを原稿に書き落としました。「ど素人が書く感想文、誰が読むねん!」と思われると思いますが、その通りです、ごもっともな意見です。誰が得するかを考えずに、とりあえず書きました。
審査員の方々、芸人たちがこれから自分のラジオやYoutubeで語るともいますが、私が今から書くのはごく一般の視聴者の意見ですので、予めご了承ください。ファーストラウンドはアスリートが引いたくじで順番決まり、その順番通りで記事書きます。
ぜひM-1の出囃子を聞きながら読んでみてください。イギリスの有名なEDMアーティストの音楽なのですが、この動画のコメント欄を見ると12月になったら日本語のコメントが増えて世界中の人が不思議に思うらしいです。
Fatboy Slim – Because We Can (Official Audio)
ファーストラウンド
1組目 ヤーレンズ ケイダッシュステージ 結成2011年(来年ラスト) 843点
超売れっ子「オードリー」と同じ事務所からチャンピオンが出るのか、という期待とともに「ヤーレンズ」の一発目を見ました。初期のころを思い出すと、ダブル眼鏡でお揃いの青いスーツ、まるで「おぎやはぎ」と「銀シャリ」を合体したようなオーソドックスな漫才でした。ここ数年、楢原のうるさいキャラを活かして他のコンビと差別化できるようになりました。
今年のくじは1組目、前の2年は令和ロマンが引いた順番、大会の雰囲気を決める役割ではありながら、優勝しにくい順番ではあります(令和ロマンの2連覇まで、前回は第1回目の中川家のみ)。決勝進出経験者として後輩たちにいい見本を見せました。審査員たちも「さすが」というコメント。正直、番組直後でもどんなネタか思い出せなかったぐらい、今大会は大激戦でした。惜しくも最終決戦に進出できませんでした。
2組目 めぞん 吉本興業 結成2016年 820点
賞レース常連のエバースの同期ですが、完全にノーマークでした。フレッシュな感じで見させていただきました。「女友達から彼氏のふりを頼まれた」はよくあるネタですが、自分たちのオリジナリティを加えることができて、前半は良かった。がしかし、審査員と同意見、後半のサンボマスターの歌メインはちょっともったいない気がします。せっかく得た前半の勢いをキープできず、最終決戦に進出できませんでした。本大会では2016年結成は3組もいましたので、この世代はこれからのM-1のメインキャストになりそうです。まさに世代交代ですね。
3組目 (敗者復活枠)カナメストーン マセキ芸能社 結成2010年(ラストイヤー) 830点
漫才師のイメージがあまりないウッチャンナンチャンと出川哲朗の事務所からものすごい癖のあるコンビが出ました。ボケが不審者過ぎて、そしてツッコミの声が高音過ぎて聞き取りにくいため、あまりテレビに向いてないとずっと感じましたが、見事に敗者復活戦で勝って、初めて決勝に進出できました。
敗者復活戦のネタ「姪っ子と仲良くできるのか?」と本番の「ダーツ旅の村人と仲良くできるのか?」は形状としていつものカナメストーンでした。有名な映画とテレビ番組を題材にして、本人たちなりの万人受け・ポップ寄りに調整されましたと考えられます。奇妙な動きとグロい展開は相変わらずでしたが、ラストイヤー効果なのか、お客さんの反応が割と良かったため、2007年「サンドウィッチマン」と2015年「トレンディエンジェル」以来、敗者からチャンピオン出るのか?と期待しましたが、残念ながら最終決戦に行けませんでした。
4組目 エバース 吉本興業 結成2016年 870点(本大会最高得点)
令和ロマン不参加で絶対王者・エースのコンビ。大会に出るたびいい功績を残し、「ケンタウロス」や「ショッピングモールになった再開の場所」など印象に残るネタ多数。ネタ作り担当の、ボケの佐々木が極限までツッコミの町田のキャラクターを活かし、ルッキズムが問題視される時代にあれですけど、パッと見町田はどういう人なのか、初対面の人でも通じる技術の持ち主。
期待を裏切らない「町田が車になる」ネタは本大会最高得点には納得。いわゆる「ケンタウロス」の進化版、佐々木が町田にわけわからんことを頼んで、最初は拒否しつつ徐々に話の流れに巻き込まれた町田を見るのを楽しいですね。審査員のコメントも「エバースのネタは映像浮かびやすい」の通りで、ネタ最中にネット民が生成AIを使って「車のふりをしている、四つん這いになって4個のルンバに乗る町田、その上に乗る佐々木」の画像が出回りました。ネタ作りの天才と天然の演技力が生み出した最高のネタでした。当然最終決戦に進出、ほとんどの視聴者も「もう優勝じゃね?」と思ったでしょう。
5組目 真空ジェシカ プロダクション人力車 結成2012年 844点
推しです。お笑い芸人に「アホらしさ・ナンセンス」を求める人間として「ハリウッドザコシショウ」「ランジャタイ」「真空ジェシカ」は大好物。本大会のネタ「ペーパードライバー教習所」は真空ジェシカ定番の「こんな○○は嫌だ」、過去には「Z画館」や「商店街」いわゆるよくある設定でとんでもない人を演じるボケの川北に振り回されるツッコミのガクを楽しむネタですね。川北の奇妙な見た目と演技、ガクの金髪とかわいそうな声、本当に唯一無二のコンビだと思います。
惜しくも敗退しましたが、3位のコンビと1点差、いかにも大激戦でした。結論のほうにも触れますが、コンビ自身がレベルアップしたとしても、周りのコンビが同じぐらいレベルアップされたら、結局優勝できないのはM-1の難しいところですね。前回の「徐々にピアノがでかくなるアンジェラ・アキ」はぶっ飛びすぎて大好きなネタでも、あいにく令和ロマンと同じ年でしたので、優勝を何回も逃しました。ラスト2年失速せずに続けられるか不安ですが、とにかく応援し続けます。
6組目 ヨネダ2000 吉本興業 結成2020年 826点
本大会唯一の女性コンビ、出るたびに「これって漫才なのか?」論争・賛否両論の元凶。今世代の「ジャルジャル」と「ランジャタイ」ですね。大会見終わってこの記事を書くとき、ネタの概要を文字起こすと「100万円ドリブルチャレンジ最中に『桃色片想い』を歌いながら邪魔しに来る松浦亜弥に負けるな」という人生で絶対書くつもりが無い文章を生み出したぐらい、飛んだ世界観の持ち主ですね。過去の「ロンドンで餅つき」から生まれた「絶対に~成功させようね~」は大好き。本大会でも小田選手が「ヨシダ2000」と読み間違って大爆笑でスタート、まさにお笑いの神様に愛されるコンビ。惜しくも敗退しましたが、これからお笑い界を引っ張る存在になると思います。
7組目 たくろう 吉本興業 結成2016年 861点
主に関西の劇場で活躍しておりあまりテレビに出ていないから、完全にノーマークでした。情報がない中で「リングアナウンサー」というネタを見ると、ボケ・ツッコミにこだわらず、きむらバンドの大喜利無茶ぶりに不器用ながら頑張って回答する赤木を見るだけで、不思議と笑いますね。赤木のキャラ(緊張しい陰キャ的な)ありきの設定なので、恐らくほかのコンビがやっても面白さが半減になります。審査員が「漫才なので練習はしたはずなのにアドリブに見えるテクニック」とコメントしましたが、後のインタビューにきむらバンド曰く「実はあえてネタ合わせしない、緊張している赤木のほうがウケるから」と答えて、なるほど演技と天然の半々ですね。見事に最終決戦に進出し、大波乱の予感をしましたが、さすがに圧倒的な強さを持つエバースにそう簡単にはいかないはず、と思いました。
8組目 ドンデコルテ 吉本興業 結成2019年 845点
前回の敗者復活戦で初めて拝見さしたコンビ、ボケのくせが強く印象に残りました。シリアスで説得力ある喋り方で自虐ネタがメインです。コンビ歴はあまり長くないですが、今年40歳になったらしいので、なるほどあの説得力は人生経験から得たものですね、同じ世代のコンビに比べると中堅感があふれています。本大会のネタ「デジタル・デトックス」から始まった話が徐々に貧困さに代わり、観客を巻き込む時事ネタにもなり、ストーリー性が高いネタでした。途中新宗教の演説会かと思ったぐらい説得力すごかったです。見事に最終決戦に進出できました。
9組目 豪快キャプテン 吉本興業 結成2019年 839点
準決勝常連な、見た目のインパクトが抜群なコンビ。山下ギャンブルゴリラ(このご時世でとんでもない芸名ですね)は、まあ名前の通り見た目で、金髪のべーやんはショートヘアの女子プロレスラーに似すぎて、ずっと女性と勘違いしました。一応ボケとツッコミの役割ありますが、ネタの流れでころころ変わりますので、ボケ・ツッコミをあまりこだわらないタイプですね。審査員も「ネタの作りはエバースに似てるからどうしても比べてしまう」とコメントされて、いわゆるエバースの「さらにどうでもええ」バージョン。べーやんがギャンゴリに小さいバッグをあげたいだけでスタートしたが、拒否し続けるギャンゴリから「ポケットパンパン」というキラー・フレーズが生まれて、めちゃくちゃな展開にお客さんも爆笑。惜しくも最終決戦に行けませんでしたが、これからもM-1に出ると思います。
10組目(ラスト)ママタルト サンミュージックプロダクション 結成2016年 823点
2年連続ラストのくじを引いたコンビです。1組目(得点の基準を探り始めて点数付きにくい)に比べるとそこまで不利ではないですが、よく考えると、2時間近く笑い続ける観客と審査員のスタミナ・集中力が限界に近くて、爆発力がなければ最終進出に行きにくい順番ですね。近年ではタイタン所属の「ウェストランド」がラストでありながらチャンピオンになりましたが、通常の大会では、観客が温まっていてまだスタミナある真ん中の順番(4~7番)が有利です。
本大会でもママタルトの通常運転に近い、大鶴肥満の大胆な動きに、長文高速例えツッコミをする檜原。このネタはもしラストではなく5番目なら、点数が違ったかもしれませんね、面白かったですが爆発力はあまり高くありませんでした。惜しくも最終決戦に進出できず、ま~ごめ、って感じですね。
最終決戦
最終決戦に出る3組は、ファーストラウンドで得た得点が高いコンビから出る順番を選ぶ権利があります。エバースは真ん中を選びました。
1組目 ドンデコルテ
ファーストラウンドに続き自虐時事ネタとして「近所の名物おっちゃん」になりかけることを演説する渡辺。M-1のよくある「2本目は1本目のアレンジ」で行くかと思いきや、キャラ的に冷静でクールな渡辺がヒートアップしてて、題材に合わせたかのように吠えまくりました。インパクトはすごかったですが、後半笑いの量が若干少なかったと感じました。
2組目 エバース
今回のケースは学校の教材に乗せてほしいぐらい大変勉強になりました。ネタのことではなく、いわゆる賞レースあるある「1本目のネタが良すぎると、2本目への期待が高くなり過ぎて、超えないと1本目のすごさを消すリスク」という現象ですね。1番有名なのはキングオブコントのロッチ1本目「着替え室」が満点を取ったにもかかわらず、2本目のネタ「ヘタレボクサー」で大失速して(観客の笑いも少なかった)優勝をあと一歩のところで逃しました。
エバースの2本目「町田が腹話術人形のふりをする」は、面白かったですが、残念ながら1本目のインパクトに及ばず、絶対王者ではなくなる瞬間を見ました。一世代前の審査員は1本目の点数も最終得点に加算しますが、審査員も世代交代した結果、どうなるかはまったく想像できませんでした。
3組目 たくろう
前回のダークホース「バッテリーズ」のように、ノーマークのコンビは新鮮味を武器として使用できて、比較的有利ではあります。それでも絶対王者のエバースの前では普通の攻撃力では足りないに違いない。
そして大会最後のネタ「ビバリーヒルズ」。パット見「なだぎ武」の「ディラン」を思い出しましたが、ここでも1本目の「緊張まみれ大喜利」。昔のアメリカンドラマ吹替風にしゃべり始めたきむらバンドの質問に、不安全開しながら合わせる赤木の回答が、他の芸人が真似できない間と言い方。最後のオチ「この方は○○州の知事」「私は大阪府の納税者、ちょっぴりね」で現場がドカーンと大爆笑になって「おや、これはジャイアントキリングでは?」と薄々感じましたが、「エバース」の1本目がすごすぎて、最後まで結果を予測できませんでした。
まとめ
結果、まさかのエース・エバース0票、ドンデコルテ1票、たくろう8票の圧勝。まさにジャイアントキリングでした。全く想像しませんでした。
2本目の難しさは肝ですね。決勝に立ち上がるだけで半年・何回も会場で観客を笑わせないといけなかった上、最後の最後にどのネタを2本目にするかは相当プレッシャーになります。最終兵器を2本目にしたとしても、1本目のネタで敗北になったら意味ないですし、出る順番も直前までわからないハンデがあります。2連覇を成し遂げた「令和ロマン」は咄嗟に披露できるレパートリーが豊富で、順番やほかのコンビの芸風に合わせてネタを選ぶらしいから、M-1に特化するコンビとして当然強かったですね。
とはいえ、「エバース」「真空ジェシカ」「和牛」もネタ数が多いにもかかわらず優勝できず、わりとシンプルな構成でできあがった「たくろう」が優勝できたのは、技術だけではなく、運・タイミング・人柄がそろえばやっと優勝できる。改めて考えると「お笑いの格闘技」M-1はすごいコンテストですね、国民的なイベントになるのは当然のことです。
一方、アメリカではスタンドアップコメディの賞レーステレビ番組「Last Comic Standing」はありましたが、2015年に終了して、類似の番組がないままです。その代わりではないですが「America’s Got Talent」がお笑いを含めて歌やダンス、一発芸を競う番組が唯一お笑い芸人が参加できる賞レースになりました。この番組(イギリス版も)はまさか日本人のお笑い芸人が大活躍の場所にもなりました。優勝争いまで行った「とにかく明るい安村」の活躍を見て、日本の若手お笑い芸人は次々と参加して、言葉の壁を超えていろいろな国の人を笑わせる、ほほえましい展開ですね。
改めまして「たくろう」優勝おめでとうございます。日本のお笑いは更に熱くなりますので、皆さんぜひ見守りましょう。
