テレビゲームはもうオワコン?日英翻訳のニュアンスの落とし穴
インドネシア人のデキです。皆さん、年末年始はどうお過ごしでしたでしょうか。私は友達の家のこたつに入りながら31日の「NHK紅白歌合戦」と1日の「芸人格付けチェック」とテレビ三昧でした。
そこで、紅白歌合戦の「スーパーマリオブラザーズ40周年」特別企画、星野源さんの「創造」ニンテンドーミュージアムからの生中継を見て思い出しました。2025年10月ごろに、任天堂の宮本茂さんが英語圏ゲームSNSで話題になりましたね。
「マリオ」や「ゼルダ」の生みの親がゲームを捨てた?
宮本茂さんは、任天堂の代表的なゲームクリエイターで、『スーパーマリオブラザーズ』『ゼルダの伝説』『ドンキーコング』などを生み出し、海外ゲーマーの間にも「Shigeru Miyamoto」として親しまれている存在です。2025年10月ごろに、私のSNSフィードにも以下の切り抜きが出回っておりました:
Speaking with Kyodo News, Miyamoto said that movies allow fans to reconnect with the company’s games. He told the outlet: “Games eventually stop running when newer versions come out, but films remain forever.”
和訳:共同通信の取材に対し、宮本氏は映画ファンに同社のゲームと再び触れ合う機会を提供すると述べた。「ゲームは新作が登場するといずれプレイされなくなるが、映画は永遠に残る」と語った。
これを見たゲーマーたち(私も含めて)はかなり衝撃的でしたね。「え?あのミスター・ビデオ・ゲームが?現代ゲームの父が?ゲームを捨てて映画メイン?」。
宮本茂さんが制作に深く関わった2023年のハリウッド映画版の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は大ヒットし、そして2026年にはその続編映画が出る予定です。さらに切り抜きが出回っていた時期にはすでに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの任天堂ワールドや、紅白にも出ましたニンテンドーミュージアムなど、本業のテレビゲームではない分野で世の中の注目を浴びていました。なので、ゲーマーとして多少「やっぱりな」の気持ちは出やすいわけです。
実は本来のインタビューのニュアンスが異なりました
先ほどの切り抜きにはちょっとだけ問題があり、実はコンテクストが足りない部分がありました。
宮本さんが共同通信のインタビューを受けたわけではなく、任天堂の広報ウェブサイトに掲載されていた、ニンテンドーミュージアムのコンセプトを説明するインタビュー記事の一部とのことです。しかももともとは2024年9月公開の記事でした。
私のSNSフィードに出回っていた切り抜きは、もともとは英語版の共同通信で、任天堂とカプコンの「ゲーム以外のビジネス」についてまとめた記事でした。まとめ方に問題があったのか、英訳したらニュアンスが伝わりにくかったのか、不明です。英語版共同通信はこちらになります:
ちょっと長いですが、切り抜き問題があったため、拡散された部分の本来の姿をそのまま載せさせていただきます:
Nintendo Dream Web【インタビュー】宮本茂さんに訊くニンテンドーミュージアムー「どうして任天堂がこんなものを作るんだ」と思ったのなら正解 2024.09.26
「―― ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの拡張エリア「ドンキーコング・カントリー」など、任天堂IPに触れる人口の拡大をされている中で、ニンテンドーミュージアムは親子三世代が楽しめる非常に有効な手段だと思います。今後IPの拡大でどのような企業像を目指していくのでしょうか?
宮本 2階の壁側にキャラクターをテーマにした展示がありますし、1階のミュージアムに入るところのウェルカムゾーンにもキャラクターを置いています。(このミュージアムでは当初)今までの商品やハードウェアの展示を中心に作ってきたんです。
でも任天堂全体を理解してもらおうとすると、IP※を見てもらうのが一番ということで、そのような場所を作りました。で、今はこのIPを知ってもらって任天堂のゲームに戻ってもらう窓口として、IPやテーマパーク、映画があるように動いています。将来でいえば、任天堂というIPという大きなブランドの中に、当然ゲームはあるんですが、それ以上に魅力的なものを作っていけたら、もっといろいろなものが中に入っていくイメージで考えられたらと思っています。
で、やはり皆さんが覚えているのはIPなんです。ゲームは新しいバージョンに変わったら動かなくなりますから。でも、これがすごく寂しくて。映像を始めたのも、実はバーチャルコンソールでしか僕らが作ったものが遊べなくなっていく寂しさもあって。ミュージアムで遊べるようにしても限界がありますけど、映像はいつまでたっても残るというのもあります。
そういうものがどんどん増えていって任天堂全体が大きなブランドになる。僕はいつも言っているんですが「任天堂を選んでもらえる理由を作る」というのテーマにしています。小学校1年生になったときに「じゃあ任天堂の何を買おう」といった、何のゲームとかじゃなくて「小学1年生になったら任天堂を買ってあげる」みたいな世の中になったらいいなと思っています。――」
※IP = Intellectual Property (知的財産)
お疲れさまでした。皆さん、お気づきでしょうか?そうです、実は宮本さんは映画業界の進出ではなく、ミュージアムのディスプレイの仕方を語ったときに、商品や機材中心ではなく、親しみのあるキャラクターたちの映像を使った、との説明でした。もう1回英語の切り抜きを見ましょう:
“Games eventually stop running when newer versions come out, but films remain forever.”
ごらんの通り、なぜか「video」ではなく「film」に英訳されてますね。
文章の前半の部分もかなり省略されたせいか、事実ではありますが、伝えたたかったこととほど遠いですね。宮本さんがインタビューで答えたことを英訳すれば、本来以下の通りです:
「ミュージアムで遊べるようにしても限界がありますけど、映像はいつまでたっても残るというのもあります。」
英訳:While it is possible for visitors to play old games at the museum, there are limits (mostly on the hardware side). On the other hand, video footage will remain forever.
ニュアンスの違いで真逆な印象になってしまいました
個人的に今回の騒動で一番残念だったのは、以下の部分を読むと宮本さんのゲームへの愛を伝えたかったはずなのに:
「ゲームは新しいバージョンに変わったら動かなくなりますから。でも、これがすごく寂しくて。映像を始めたのも、実はバーチャルコンソールでしか僕らが作ったものが遊べなくなっていく寂しさもあって。」
まさか逆に「ゲームは長く残らないから、時代は永遠に残る映画でしょう!」と取られてしまったのは、本人が一番驚きますね。検索した限り、ゲーム系メディアのいくつかは補足情報を足されましたが、SNS投稿は残念ながらそういった補足などがないから、誤ったニュアンスのほうが出回っているのは悲しい事実ですね。皆さんもSNSを見るときに気を付けましょう。
