京菓子展2022「枕草子」デザイン部門に応募してみた
「和菓子部長」こと、インドネシア人のデキです。去年の京菓子展2021「徒然草」の展覧会が開催されたとき、たまたま京都にいたから受賞作品を購入出来ました。その時、自分がデザインしたものを職人さんが実現してくれるなら素敵だなと思いました。そこで、今年の京菓子展2022「枕草子」に応募してみました。このコンテストには2つの部門があります。「茶席菓子実作部門」は実際に和菓子を作って写真で応募して、入選したら審査のために作る部門です。私が応募したのは「京菓子デザイン部門」という、パンフレットに菓銘(タイトル)、コンセプトとデザインを書いて郵送して、入選したら職人さんが作ってくれる部門になります。
テーマは毎年決まってます。去年は「徒然草」、今年は「枕草子」でした。上生菓子は和歌をモチーフにすることが多いと聞いたことがありますから、和歌がたくさんある作品を選定されるのかもしれません。日本の中学校では「春はあけぼの」等を暗記するぐらい日本人全員馴染みある作品ですが、私は読んだことがありません。急遽英語版の本をネットで買いました。
Table of Contents
実は面白い「枕草子」
普段漫画しか読まないですから、最初しんどそうと感じましたが、英語版のおかげで言葉の意味と話の面白さを瞬時に理解できました。日本語でも古文は理解しづらいなら、現代日本語版を先に読むほうがいいと思います。
意味を理解できれば「枕草子」は「1,000年前のOLのつぶやき」そのものです。よく出てくるパターン「色は紫、赤、○○」「川は鴨川、○○」いわゆるTOP5のリスト、現代では「やっぱ○○といえば○○だよね」と同じです。そして宮内で起きたこと、これも面白いです。ある説によると、もともと日記として書いたものですから、人に読ませるつもりがなく、正直に書いてあるから、まあまあ口が悪いですよww
例えば「警備員は痩せてるほうがいいよね」「あ、でも役職ついてえらくなったら、太ったほうがいいかも」「近所で遊ぶ子供の声は癒されるね」「室内で暴れてる子供をコントロールできない親に腹が立つ」「この季節にあの色、ないよね」もはやコンプライアンス完全無視のツイッター裏アカを読むような感覚でした。おかげさまで美化した映像ではなく、当時の雰囲気をリアルに映像化できると思います。ぜひ、古文を暗記するのではなく、理解できるバージョンで読んでみてください。
隠れながらつぶやく清少納言の絵と考えられます。
「雪山の賭け」という話
8割ぐらい読み終わってから、振り返ってみると一番印象に残ったのは「雪山の賭け」という話でした。デザインはこの話をベースにして「幻の雪山」と命名して応募したら、まさか佳作に選ばれました。絵心がないですから同僚に「お尻?」と言われ、以降お尻にしか見えなくなったデザイン、正直「コンセプト99%:デザイン1%」でした。公式サイトでは絵しか掲載されていないから、ここでコンセプトを説明したいなと思います。
「枕草子」の詳細については、日本文学を研究する人の説明のほうがいいですから、ここではざっくり書いてみます。まず登場人物。中宮定子(藤原 定子)第66代天皇・一条天皇の皇后、この話では「上司」の役割、キレイで頭が良く、和歌にも詳しい人でした。そして「枕草子」の作者である清少納言、和歌名人の娘、たぶん中宮定子のグループでの役割は和歌を作ると愚痴を言う担当、この話では「部下」の役割。話の途中で他の部下や使用人も登場、最後に天皇陛下も登場しました。
12月中旬、京都で珍しく雪が積もるぐらい降りました。京都住民が盛り上がって、各家の庭で雪山を作り、中宮定子宅でも雪山を作りました。出来上がった雪山を見ながら中宮定子が「この雪山いつまで残るかしら」と部下たちに問います。他の女性の部下たちが「一週間ぐらいですかね。」「いや、5日間でももたないでしょう。」と答えました。この時、清少納言はなぜかボーとしてて(寒いからかな)、「あなたはどう思う?」と聞かれた時、「1月15日までですかね。」と適当に答えました。これを聞いた全員が大爆笑しました。「あ、長すぎたかな。」と実は内心で思ったらしいですが、頑固な面がありますから「訂正しません!絶対1月15日までに残る!」と言い張りました。これが「雪山の賭け」の始まりでした。
たまたま2022年冬に京都も雪積もったからイメージ浮かびやすい
その後、清少納言は不安になりながら毎日雪山の様子を見ています。雨が降るとき、普段あまりお祈りしない清少納言でも、「雪山の観音様」に祈るぐらい必死でした。この祈りに応えるように、年末になっても雪山がまだ残り、お正月にまた雪が降りました。当然清少納言は大喜びでした。しかし、中宮定子が「話が違う。新しく積もった分を片づけて。」と部下に命令しました。上司の中宮定子も実は負けず嫌いな面があり、似た者同士の戦いでした。これを見た清少納言は恐らく「今日の上司がムカつく!卑怯!」とツイートしたかったのでしょう。
1月上旬になって、中宮定子が宮内に行く必要があり、清少納言も一緒に行かなければなりませんでした。最後まで雪山を見守れずに惜しいが、庭の管理人に清少納言がこう頼みます。「お菓子を定期的に送るから、この雪山を守って!ちびっ子とか近寄らないで!」と。本に書いてないですが、実は中宮定子が宮内に初めて行く歴史的な瞬間でした。
宮内にいる清少納言が定期的に雪山の様子の報告を受けて、なんと1月13日には雪山がまだ1メートルぐらい残っていました。適当に言った本人も驚き、1月14日の夜使用人に物の蓋を渡して「雪山の綺麗な部分だけ取って、この蓋に載せてね。」と依頼します。清少納言はその夜、小さい雪山の隣に置く和歌を作成して、次の日に上司にドヤ顔したかったのでしょうね。
しかし、使用人は空の蓋を持ち帰りました。当然驚いた清少納言は混乱してしまいます。「2日前まであんな残っていたのに、何で?!」残念に思った清少納言は仕方なくそのまま出勤しました。そして、中宮定子に「暗い顔してるね、どうした?」と聞かれた清少納言がこう答えました。「ああ、おかしいな、2日前までまだ残っていた雪山なのに、一部を取って、それに合わせて和歌を頑張って作ったのに、なぜか今朝もう消えていた。おかしいな。」
これを聞いて、くすっと笑った中宮定子が「なんか悪いことしたな。実は今朝、雪山はまだ座布団ぐらい残っていたから、捨ててと部下に頼みました。」これを聞いた清少納言は恐らく言葉に出ないぐらい怒り心頭。後で聞いたら、庭の管理人が必死に雪山を守ろうとしたが、中宮定子の部下に「あなたの家族の安全のために、どかせて!」と言われたから仕方なく諦めたそうです。とんだパワハラでしたね。
まだ頭の中を整理できない清少納言ですが、中宮定子がこう続けました「和歌を用意したんですよね。せっかくだから読んでみて。」他の部下たちの女性も「聞きたい!聞きたい!」と騒ぎ始めましたが、拗ねた清少納言が一切和歌を言わないようにしました。たまたま天皇が通って「何の騒ぎ?」と聞いてこられたので、賭け事を説明したら「なるほど。前からあなた(清少納言)は妻(中宮定子)の一番のお気に入りと聞いたが、これを聞いて納得。お互い負けず嫌いだね。」とコメントしました。これで話が終わって、結局和歌は出ませんでした。なんでやねん。日記に書いて欲しかったと思いました。
和菓子をデザインするときに本来和歌をベースにするらしいですが、まさか肝心の和歌が出ない話を選定してしまいましたね。中宮定子も清少納言もお互い負けず嫌いで意地っ張りと言う点が、非常に印象に残りましたから、この話以外選べなかったですね。漫画の単行本を読んだことある人はわかると思いますが、特に日常系漫画の各話の終わりには、漫画家が小さい絵を足すことが多く(連載にはない絵)あります。その話に出た出来事や物に関係する絵です。それをイメージして、もし中宮定子の妨害を受けなかったら、清少納言が欲しかったお盆の上に載るはずの小さい雪山をベースにデザインしてみました。
単行本では大体このあたり
和菓子をデザインしてみた
絵を描くことは得意ではないから、中々進むことはできませんでした。「漆のお盆」があるから、下は必ず黒と決めましたが、「雪山」をどう描くか苦労しました。「山」は普通頂点1個のみですが、ちょっとつまらないかな、そして「塩の山」にも見えるから、頂点1個を外しました。では頂点3個は?「山」という既存の上生菓子は頂点3個ですし、アシンメトリーが欲しかったから、頂点3個も外しました。これで、まず高さが違う頂点2個にしました。単純でしょう。
ではどんな頂点2個の山にしますか?エベレストぽく突き立つような雪山も考えました。しかし、人の手が作るから、優しい丸みのほうがいいかなと思って、スーファミのスーパーマリオに出るような背景の山が思い浮かびました。かっこいいより可愛いを優先に、丸い雪山にしました。絵だけ見ると「最初からお尻を描きたかった?」と思われるかもしれませんが、実は偶然でした。描いて、同僚に見せたから「あ、本当だ、お尻だ。」とやっと気づきました。不思議ですよね。
和菓子は味も大事ですから、次はどんな材料で作るかを考えました。下の黒い部分は黒い羊羹で決定しました。雪山の外側は白い求肥か羽二重餅で、真っ白な上生菓子は珍しいから挑戦してみました。「氷餅」の粉をまぶしたらちょっと反射して雪ぽく見えるかもしれません。中の餡は、あえて「あずき餡」ではなく「白あん」にしました。本来の雪山は外側が雪、中は土ですから「あずき餡」のほうがふさわしいかもしれませんが、こちらは「お盆に雪を盛る」ですから、全体的に白いかなと思いました。ここまでだと、大福の下に羊羹、だけになりますから、もう1点差別化できないかなと思いました。実はチョコミント味が好きで、ミント味の和菓子は珍しいから、先ほどの「白あん」をミント味にして、更に小さいホワイトチョコを足せば味も食感もユニークになると期待して、デザインを完成しました。
中身のデザイン
最後に菓銘を考えました。日本語のニュアンスは難しいですから、日本人の同僚に相談してみました。いくつか候補が出てきて、例えば「お盆の上の雪山」ジブリ作品かいな。「雪山の賭け」タイトルそのままですからさすがにアウト。いろいろ出して、最初はあまり気に入らなかった「幻の雪山」にしました。なぜ気に入らなかったと言うと、「幻」はIKKOさんのイメージが強いですね。しかし、雪山も和歌も幻に終わったので「幻の雪山」でピッタリですから、そう命名しました。
コンペの結果
全部揃ってからデザインを郵送しました。絵に自信があまりないからそこまで期待しなかったのですが、入選お知らせの時期である9月上旬を過ぎても連絡がなく「やはりハードル高いな」と思いました。すると、ちょうど忘れた頃、11月上旬に「佳作作品に選ばれました」というメールが来ました。BCCで送信されていたし、半信半疑ですから、同僚に見せて「これスパムちゃう?」と言いました。しかしその日の夜、京菓子展2022公式サイトに本当に載せられていて、未だに夢かと思っています。
「幻の雪山」 作:DEKY HUTOMO
佳作作品はウェブサイトに画像を載せるのみですから、残念ながら職人さんに再現されませんでしたが、応募してみて本当に良かったです。各和菓子にストーリーや考えがあって、それを元に職人さんが形にして、私たちはその物語と共に美味しくいただきます。皆さんもぜひ気になる上生菓子を見かけたら「これは何ですか?」と聞いてみてください。季節に合わせてどんな花、動物、風景等をモチーフにしたのかを知るほうが楽しいと思います。
何より、ストーリを選んで、それを元に和菓子をデザインするのは非常に楽しい経験でした。コンペと関係なく、メモだけでもいいから、他の作品をもっと考えてみたいなと思います。例えば能楽の「道成寺」に出る大道具の「鐘」、寺の鐘ではなく和風柄のオブジェですから、ポテンシャルがありそうですね。或いはギリシャ神話のワンシーンを和菓子にどう再現するかでも。表現方法の一つとして和菓子は本当に無限なポテンシャルがあると思います。
以上、京菓子展2022「枕草子」に応募してみた経験でした。来年も頑張って応募したいと思います。特に絵の品質をアップしたいと思います。絵心ない私でも佳作に選ばれたから、皆さんもぜひ気軽に応募してみましょう。