陸へ上がったのは河童?それとも魚?:日本語と英語の類似していることわざ6選
日本語を勉強しているときや人と話しているときに、ことわざと慣用句が頻繁に耳に入ります。少し特殊で、抽象的なイメージを使いがちなことわざは、第二言語で聞くと非常に興味深いです。個人的に気に入っている日本語のことわざは「馬の耳に念仏」です。馬の耳に念仏を真剣に唱えている人を思い浮かべるとおもしろいですね。
日本語のことわざの中にも、聞き覚えのあることわざがいくつかあります。なんと英語でもほとんど同じことわざがある!と盛り上がります。日本語と英語は、言語としての成り立ちがまったく違うので、同じことわざがあることに驚きました。
そこで、今回は英語ネイティブの私が、そういった日英共通(または類似)のことわざを紹介し、由来も少し見ていきたいと思います!
Table of Contents
1. 一石二鳥 – To kill two birds with one stone
こちらのことわざは非常に有名です。日本語だと綺麗に四字熟語に収まりますが、英語では少し長い「ひとつの石で鳥を二羽殺す」と言います。
実は、様々な言語にも同じまたは類似したことわざがあります。例えば、イタリア語では「ひとつのソラマメでハトを二羽捕まえる」と言い、もうちょっとかわいいバージョンになっていますね!英語では17世紀に初めて使われております。日本語の一石二鳥は英語から訳したものと中国語の「一石二鳥」から来たというふたつの説があります。
2. 豚に真珠 – To cast pearls before swine
英語の「to cast pearls before swine」は日本語の「豚に真珠(を与える)」と同じで、価値が分からない者に貴重なものを与えてももったいないことになるという意味です。
英語のバージョンは聖書に出てくるフレーズなので、キリスト教の影響が比較的弱い日本ではどうやって日本語に現れたのかが不思議で仕方なかったです。もしかしてすごい偶然だとも思いましたが、日本語の辞書で調べてみたところ、出典は国木田独歩の小説でした。そして国木田独歩について調べていたら、キリスト教に改宗したことが分かりました。いつ、どうやってこのことわざが日本語に入ったのかのはっきりした情報は見つけられませんでしたが、もしかして国木田独歩の影響なのでしょうか。
「豚に真珠」ということわざは聖書に由来があっても、その概念は普遍的かもしれません。まったく同じ意味を持つ「猫に小判」もありますからね。
3. 目から鱗が落ちる – To have the scales fall from one’s eyes
「豚に真珠」と同じく、「目から鱗」は聖書から取られたことわざです。何かのきっかけで、急に悟ったかのように物事が見えたり、わかるようになったりすることを示します。また聖書から来ることわざ、しかも英語と同じフレーズをピックアップしていることに驚きましたので、もう少し調べてみました。
そうしたら、40年代から50年代に渡って、作家の中でキリスト教のブームが起こり、志賀直哉や太宰治などの有名な作家たちがキリスト教に改宗したり、キリシタンのシンボルイズムを作品に取り入れたりしていました。多くの作家はその後キリスト教から離れていきましたが、しばらくの間は強い影響力を保ちました。
さらに作家だったからこそ、西洋の文学を読み、和訳し、そこでも聖書の引用やキリスト教の概念に触れたはずです。「豚に真珠」もそのひとつかもしれません。
4. ローマは一日にして成らず – Rome wasn’t built in a day
大事業や大事を成し遂げるためには真剣な努力が必要で、時間がかかるという意味です。こちらは英語から訳されたことわざです。
ローマに関することわざはいくつかあります。例えば、全ての道はローマに通ず(英語: All roads lead to Rome)とよく言われています。英語では「When in Rome, do as the Romans do」(「When in Rome」とよく省略される)、「ローマでは、ローマ人のようにしなさい」という有名なことわざがありますが、日本ではまったく同じ意味の「郷に入れば郷に従え」があります。
日本語のことわざは中国の五灯会元のエピソードが由来です。英語と日本語で由来が違っているにもかかわらず、”ローマ”と”郷”以外はほとんど同じ表現になっていることはとてもおもしろいですね!
5. 陸へあがった河童 – Like a fish out of water
「郷に入れば郷に従え」のように、ほんの少しだけ違うふたつのことわざは「陸へあがった河童」と英語の「Like a fish out of water」(陸へあがった魚)です。しかし、その微妙な違いによって、少し違うイメージが思い浮かぶのがおもしろいです。
河童は陸にあがると弱ってしまうから「陸へあがった河童」は、環境の変化によって無力になってしまうという意味になります。一方、英語の「Like a fish out of water」は、場違いに感じ、気まずく、落ち着かない気持ちを示します。なぜなら、魚は陸では生きられないので、究極の「場違い」だからです。それに陸へあがった魚はバタバタし、このことわざには情けない状態や焦りの気持ちになっているニュアンスも含まれることがあります。
6. 隣の芝生は青い – The grass is always greener on the other side
こちらのことわざは英語で頻繁に使われています。他人のものが自分のものよりよく見えるのが人の性で、本当は自分のものと他人のもの(求めている、比較しているもの)はほぼ同じだという意味です。
「隣の芝生は青い」は英語から翻訳されましたが、類語の「隣の花は赤い」ということわざもあると最近学びました。もともと「よその花はよく見える」ということわざが日本にあり、明治になってから「隣の花は赤い」になったらしいです。偶然にも日本にもよく似ていることわざが以前からあったということに驚きました!昔の人は庭の心配がさぞ大きかったみたいですね。
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最後に少しユーモアのある英語のことわざを紹介したいと思います。
「後悔先に立たず」と近い意味の「hindsight is 20/20」という英語のことわざがあります。
「20/20」は正常視力、つまり良く見えることを示します。「hindsight」は後知恵のことです。「hindsight」には「sight」(視覚)が入っているため、ダジャレのように「hindsight」の視力はいつも完璧、「20/20」という意味です。事が済んだからこそ全容がよく見える、取った行動が悪い結末を招くことになると知るよしがなかったので、悔やんでも仕方がないという意味でよく使われています。
こうしたおもしろみのあることわざが日本語と英語にもたくさんあり、時折似たようなことわざを見つけると楽しくなります。
やはり、ことわざは言語の醍醐味のひとつですね!歴史と文化の流れと変化が垣間見え、日常会話を彩ることができるツールのひとつです。